米国不動産テック 注目7社のビジネスモデル図解

市川 紘(Ko Ichikawa)
17 min readDec 6, 2018

前回の投稿で米国不動産テック業界のカオスマップを作成しましたが、今回はもう一歩踏み込んで、中でも押さえておくべき7社(下の図のピンクの枠内)のビジネスモデルを図解します。

なお、図解にあたっては、©ビジネスモデル図解研究所のツールキットを使用させていただきました。

①Opendoor: 現代版 買取再販業iBuyerのパイオニア

まずはこのブログでも度々登場し、先日もSoftbankから450億円の資金調達を行い注目を集めたOpendoorを紹介します。

【ビジネスモデルの流れ】
①Opendoorが価格アルゴリズムを活用して売り手に査定金額を提示
②売り手が査定金額に満足すれば即座にOpendoorへの売却が成立
③Opendoorは物件を保有し販売活動を行い、別の買い手に転売

【重要ポイント】
ポイントA: ターゲットとなる売り手は限定的
Opendoorが転売益を確保するため、査定金額が割安なケースが多く、かつ平均6.2%の手数料(Service Charge)を支払う必要があるため、金銭面では通常の仲介を通して売却した方が得です。

「価格は多少妥協してもいいから、手っ取り早く売却を完了したい」という限定的な層がターゲットとなり、実はニッチなビジネスモデルと言えます。

ポイントB: 外部エージェントを活用し売り手集客を強化
物件売却マーケットにおけるオンラインシェアは4%に留まり集客効率が悪いため、最近はすでに売り手を抱えている他社のエージェントを活用して販路を拡大しています。

具体的には、売り手への通常の販売提案に加えてOpendoorの即時買取のオプションも提示してもらい、即時買取で成約した際にはOpendoorからエージェントに紹介料を支払うというモデルです。

ポイントC: 買い手集客力強化が課題
アメリカは制度上、買い手側の仲介手数料3%も売主が負担するため、Opendoorが転売する際には買い手側のエージェントへの仲介手数料支払いが利益を圧迫します。

理想はエージェントを介することなく自社で買い手を集客し、手数料を削減することですが、残念ながらZillowやTruliaといった大手と比べるとまだまだ一般ユーザーへの知名度は格段に劣るのが現状です。

今後どのように自社での買い手集客力を強化するかが、長期的にはとても重要になります。
(買い手側に強い仲介会社Open Listingsの買収も、この課題への打ち手の一貫だと考えられます)

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②Zillow: 最大手ポータルのアメリカ版SUUMO

続いては米国の不動産ポータル最大手、いわばアメリカ版SUUMOのZillowを紹介します。
グループ企業のTruliaや競合の一つであるHomes.comもまったく同様のビジネスモデルですし、エージェントからの「広告費」を「問い合わせ課金」と読み替えればRealtor.comもこの類型に当てはまります。

【ビジネスモデルの流れ】
①ユーザーはZillow上の物件情報を閲覧し、興味があれば問い合わせ
②問い合わせたユーザーは見込客として広告費を支払っているエージェントに紹介される
③その後、成約にいたればユーザーからエージェントに仲介手数料が支払われる

【重要ポイント】
ポイントA: 圧倒的なブランド・集客力が強み

物件やエリアなど様々な情報がオープンなアメリカでは、サイト上のコンテンツでの差別化は難しいうえ、UIも長年の試行錯誤の結果、各社似通ったものに落ち着いています。

そのためZillowのサイトの中身が他の競合と比較して優れているわけではありません。
不動産ポータルの第一人者として築き上げた「物件探しと言えばZillow」という圧倒的なブランド力こそが彼らの強みです。

このブランドに基づく集客力によって高い収益性を確保し、それをブランディング・集客に再投資するという好循環を生み出しています。

ポイントB: 収益リスクの低い広告費モデル
エージェントに紹介する見込客の数やその後の成約率に左右されることなく、毎月決められた広告費を前課金するモデルのため収益リスクが非常に小さいです。

見込客の量や質の変動リスクはエージェント側が負うため本来は敬遠されがちなモデルですが、圧倒的なユーザー集客力を武器に「嫌だけど使わざるをえない」という位置づけを確立しており、まさに王者の戦い方をしていると言えます。

ポイントC: MLSに接続できないことが潜在的なリスク
MLSというのはアメリカ版REINSで、販売中の全物件が登録されている仲介会社向けデータベースです。
Zillowは仲介会社ライセンスを保有していないためMLSに接続することができず、各エリアのMLSの管理団体と関係性を構築することで何とか物件情報を獲得しています。

そのため厳密に言うと、MLSから直接・リアルタイムにデータ取得できるポータルサイトに物件鮮度・情報精度・網羅性で劣ります。
また政治的な立ち回りに失敗し業界側を敵に回すと、この物件情報を入手できなくなる可能性があるのも潜在的なリスクになります。

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③Keller Williams: 従来型仲介会社の最大手

現在、スタートアップ界隈で注目を集めている次世代型の仲介会社を紹介するにあたって、まずはそれらの企業がディスラプトしようとしている従来型仲介会社のビジネスモデルを解説します。

エージェント数17万人の最大手Keller Williamsを代表例として紹介しますが、その他の企業もほぼ同じモデルです。

【ビジネスモデルの流れ】
①KWはエージェント業務に必要な各種支援を提供
②ユーザーが成約した場合、エージェントは仲介手数料を得る
③エージェントは仲介手数料の一部をマージンとしてKWに支払う

【重要ポイント】
ポイントA: 従来の業務支援の価値低下
大前提として、アメリカの不動産エージェントは仲介会社に所属し、適切な管理・監督を受けることを法律上義務付けられております。

そういったマネジメントに加えて、オフィスやブランド、研修、法務/経理といったエージェント業務に必要なサポートを提供するのが仲介会社の役割で、それと引き換えに仲介会社はエージェントが得た仲介手数料から平均15%のマージンを抜いています。

ただし、インターネットの台頭によって様々な情報がオープンになり、エージェントは以前ほど仲介会社に依存する必要がなくなってきました。
オフィスがなくてもスマホ一つで働けますし、仲介会社の看板を借りなくてもオンラインで集客でき、マネジメントや研修に頼らずとも自身で情報収集が可能です。

そういった背景から、従来の仲介会社の提供価値が低下し、高額なマージンに疑問が出始めているのが現状です。

ポイントB: ユーザー集客力の強みも薄れている
20年前であれば大手の看板を出していれば店舗に集客ができましたが、今や集客の主戦場はオンラインです。

KWのような大手の仲介会社は自社でポータルを持っていますが、非常に使いづらく、ユーザー数は前述したZillowやRealtor.coなどの専業オンラインポータルに遠く及びません。
中堅以下の仲介会社はちゃんとしたウェブサイトすら持っていないケースも多いです。

集客面のサポートを期待できなくなっていることが、さらに従来型の仲介会社の立場を苦しくし、スタートアップ仲介会社の台頭の要因となっています。

④RedFin: ポータル×ディスカウント型仲介会社

従来型に対抗して台頭している次世代型の仲介会社の筆頭格がRedFinです。長らく不動産テック業界のユニコーン企業の代表格として君臨していましたが、昨年NASDAQに華々しく上場。
売上Multipleは従来型の仲介会社が1倍が目安の中、約3倍(=時価総額1,700億円)を維持し、今後のさらなる成長を期待されています。

【ビジネスモデルの流れ】
①ユーザーはRedFin上の物件情報を閲覧し、興味があれば問い合わせ
②問い合わせたユーザーは見込客として自社の社員エージェントに見込客として紹介される
③成約した場合、相場より安い仲介手数料がRedFinに支払われる

【重要ポイント】
ポイントA: 物件情報をMLSからポータルへ直接取得
Zillowなどのポータル専業プレイヤーと異なり、RedFinは仲介会社ライセンスを持っているので直接MLSにデータ接続して物件情報を取得することができます。
そのため、ポータルサイト上に販売中の物件がリアルタイムに反映され、掲載物件の網羅性や情報精度が高いという特長があります。

これにより本気度の高いユーザーの間では「RedFinは信頼できる」という認知が広まっており、後発ながらもZillowやRealtor.comを脅かす勢いでユーザー数を伸ばしています。

ポイントB : プロセスの細分化・標準化による仲介手数料ディスカウント
RedFinのもう一つの大きな特長は、物件価格×3%が相場の仲介手数料を1〜2%まで値引くというディスカウントです。

彼らは、個人事業主のエージェントが内見から契約まで一気通貫して伴走する従来の仲介業務をやめ、内見・申込・契約とプロセスに分解。
安めの固定給で雇った新人の社員エージェントを、この細分化・標準化された個々のプロセスの専門家としてアサインすることで、早期の育成・戦力化を図っています。
これにより全体の業務効率向上・コスト圧縮を実現し、仲介手数料をディスカウントできるのです。

(カオスマップ上のOpen ListingsやREXも同様のビジネスモデルですが、規模が小さく、かつ強力なポータルサイトを持っていないので、まだまだRedFinの足元にも及ばないというのが正直なところです。
また「固定フィー系」のカテゴリーもディスカウントの派生系なのでほぼ同じようなビジネスモデルです。)

ポイントC: 課題はディスカウントとサービスクオリティのバランス
RedFinの課題は、必然的に経験の浅いエージェントが担当となり、しかもその担当がプロセスごとに目まぐるしく交代するので、サービスのクオリティに不満が出やすい点です。

「欲しい物件を安く確実に買うこと」や「自分の物件を高く早く売ること」ことがユーザーの本質的なニーズなので、大多数のユーザーは相場通りの手数料を払っていいから経験豊富なエージェントに依頼したいと考えています。

このあたりがRedFinが成長はしているものの、爆発的にシェアを伸ばせていない要因です。

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⑤Movoto: ポータル × SaaS型仲介会社

仲介会社としてRedFinに続く全米第2位のユーザー数のポータルサイトを持ちながら、エージェントに関してはRedFinと全く異なるアプローチをとっているのがMovotoです。
(なるべく客観的に書きますが、自分の会社なので3割引くらいのイメージで読んでください)

【ビジネスモデルの流れ】
①ユーザーはMovoto上の物件情報を閲覧し、興味があれば問い合わせ
②問い合わせたユーザーは見込客として自社エージェントに紹介される
③成約時は仲介手数料がエージェントに支払われる(エージェントからMovotoへのマージン支払いは無く、代わりに月額固定費を支払い)

【重要ポイント】
ポイントA: 物件情報をMLSからポータルへ直接取得
RedFinと同様に仲介会社ライセンスを持っており、MLSから直接ポータルへデータ連携。ZillowやRealtor.comといった超大手と比べるとブランド力では劣る一方で、物件情報の鮮度・精度・網羅性が高いのが強み。

ポイントB : マージン課金モデルからSaaSモデルへ転換
店舗やスタッフをはじめとした高額な固定費を抱え、それをペイするためにエージェントに高額なマージンを課金するという旧来の構造からいち早く脱却。

・オフラインの店舗を撤廃
・仲介会社としての業務支援をすべてエージェント向けアプリを通して提供
・ポータルサイト経由の見込客をエージェント向けアプリを通して紹介
・固定費を圧縮した分、高額なマージンではなく低額の月額固定費のみエージェントに課金
というSaaS型仲介会社ビジネスを展開しています。

仲介会社に支払うコストを削減しながら、売上を伸ばすための見込客まで紹介してもらえるため、既存の仲介会社から乗り換えるエージェントが増えています。

ポイントC: エージェントの質は高いが、スケールが今後の課題
上記のSaaS型仲介会社は、エージェントの成約数が少ないとマージン0の恩恵を受けづらく、かえって月額固定費の負担が大きくなってしまいます。

裏を返すと、成約数の多いエージェントは、従来の仲介会社に払っていたマージンを大幅に節約し、収入をアップすることができます。
結果として、Movotoには質の高いエージェントだけが集まるようになっており、これは大手仲介会社やRedFinと比較したときの強みです。

ただし、既存大手と比較するとエージェント数やエリアのカバー範囲がまだまだ限られているので、どこまでスピーディーに規模を拡大できるかが今後の課題となります。

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⑥Compass: トップエージェント特化型 仲介会社

仲介会社をいくつか紹介してきましたが、最後は話題沸騰中のCompassです。Softbankから累計1,000億円近い資金調達を受け、評価額は5,000億円を上回っています。
(Zillowの7–9月四半期の業績が悪く、時価総額が6,500億円から4,700億円に急落したため、一時は未上場ながらCompassがアメリカでもっとも価値の高い不動産企業に躍り出たことになります。)

【ビジネスモデルの流れ】
①高待遇でトップエージェントを引き抜き
②トップエージェントは自身の顧客の物件売買を仲介
③成約時は仲介手数料がエージェントに支払われる(エージェントからCompassへのマージン支払いは無し)

【重要ポイント】
ポイントA: トップエージェントへの破格の高待遇
自社開発した最新の業務支援システムを提供するだけでなく、Compass加入時の移籍金やストックオプション、広告予算まで提供。
一方でエージェントに対する課金は無し。豊富な資金を生かして、他の仲介会社の追随を許さない破格の高待遇でトップエージェントの採用を進めている。

ポイントB: 業務支援システムのライセンス販売を検討中
前述の通りCompassは自社のエージェントからマネタイズができておらず、どのように収益を確保するかが課題となります。

その解決策として発表されたのが「Powered by Compass」という自社の業務支援システムをエリアの重複しない仲介会社にライセンス販売するビジネスです。

ただし、直接競合しないとはいえ他社のエージェントに業務支援システムを提供することに対して、自社エージェントからの猛反発があり、このビジネスは一時中断しています。
経営陣はこういった摩擦の発生しない海外への展開も示唆しており、今後の展開に注目が集まります。

ポイントC: ユーザー向けのサイトは未整備
豊富な資金を武器にシステム開発部隊の採用も強化していますが、まずはエージェント向けの業務支援システムの開発に注力しています。

そのためテック系仲介会社を標榜しているものの、RedFinやMovotoのようなポータルは整備されておらず、ユーザーから見たときのテック要素はまだそれほど強くありません。

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⑦Agentology: 問い合わせ一次対応 × エージェントプラットフォーム

仲介会社系の企業の紹介が続いたので、最後はそれ以外で注目を集めている企業を紹介します。

【ビジネスモデルの流れ】
①各種ポータルからエージェントが見込客を獲得
②エージェントは代行料を支払いAgentologyに見込客の一次対応・ナーチャリングをアウトソース
③見込客がエージェントの条件に合わない場合、別エージェントに紹介し、成約時に手数料を得ることも可能

【重要ポイント】
ポイントA: 一次対応・ナーチャリングに完全特化
自社で集客するのではなく、エージェントが集客した見込客に対して一次対応を行い、検討の本気度が上がるまで伴走(ナーチャリング)することに完全特化しています。
そのためのオペレーションや業務システムを相当磨き込んでおり、個々の仲介会社やエージェント自身で行う場合とは比べ物にならないくらいナーチャリングの成功確率が高いです。

ポイントB: エージェント間の顧客紹介プラットフォームも構築
Agentologyがナーチャリングに成功した顧客が、元々のエージェントの得意条件(エリアや物件種別、価格帯など)に合わない場合、Agentologyを利用している別のエージェントに顧客を紹介し、成約時に手数料を得ることもできます。

単なる問い合わせ一次対応代行業に留まることなく、それを入口にしてエージェント間で顧客を紹介し合うプラットフォームを構築しているのも面白い点です。

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市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。