iBuyer3大ニュースと最新業界マップ(2020年夏)
前回の記事ではiBuyer各社が続々と物件買取を再開しているという話を紹介しました。
その後も各エリアで再開が続き、2020年8月6日にはついにZillow Offersが中断前の全エリアで営業を再開。新型コロナウイルスの影響をものともせずiBuyer業界は完全に平常運転に戻ったと言えます。
(物件買取後に空っぽの家に対人接触なしのセルフ内見を導入できるのは売買仲介にはない強みで、 むしろ追い風にすらなっています)
今回はこういったオペレーション面の話というよりは、各社の戦略面に着目したいと思います。
ご参考までに、こちらの図はちょうど約一年前の記事でまとめた iBuyer業界マップです。
当時は本気を出したZillowに対抗すべく、それまで競合していたRedfinとOpendoor、KWとOfferpadといった大型提携が相次いでいました。これに対しKnockやRealogyは追い上げられるのか、Realtor.com等のiBuyer未参入企業はどう出るのか、という話もしていました。
今日は最近の注目ニュースを3つほど紹介し、それらを踏まえて最新の業界マップをまとめ直してみたいと思います。
ニュース①: KWとOfferpadが独占契約を終了
2019年8月にiBuyerスタートアップOfferpadと米国最大手仲介会社の一角KWが独占契約での提携を発表しました。ZillowやRedfinの集客力に対抗したいOfferpadと、本心では在庫リスクが怖いので物件を買い取りたくないKWの利害が一致した結果でした。
しかし、2020年6月に両社は提携は継続するものの独占契約の部分は終了することを発表しました。
これによりKWはOfferpad以外の業者からの即時買取オファーも顧客に提案できるようになります。どのような買取業者とKWが組むかは発表されていませんが、Offerpad以外のiBuyer企業や地場の投資家が考えられます。
ここで浮き彫りになるのは、KWのiBuyer実業からiBuyerマーケットプレイスへの戦略シフトです。
もともと仲介会社として物件在庫を抱えるDNAを持っていないKWは、時代の流れに逆えずiBuyer事業を始めてみたものの、そこまで積極的ではありませんでした。
だからこそOfferpadとの提携をスタートしたのですが、提携先を他社にも広げることで、自社での買取再販は完全にあきらめ、複数の即時買取オファーを比較検討できるマーケットプレイスを目指すことが明確になりました。
ニュース②: RedinがiBuyerは主戦略ではないことを明言
KWと同じく、どこまでiBuyer実業に本気か見えづらかったのがRedfinですが、CEO Glenn Kelman氏が2020年7月にとあるインタビューでかなり踏み込んだ本音を語っていたので、その内容を以下にまとめます。
・iBuyerの再販時のマージンが高いと言われるが、2〜3%に過ぎない
・内見対応に伴う新型コロナウイルス感染リスクを避けるためにiBuyerのニーズは短期的に高まるが、長期的にどこまで伸びるかについては懐疑的
・金融業界でも短期的に利益を上げた会社がローンの焦げ付きで倒産した。同じミスを繰り返さないように物件買取の際にはバランスシートリスクに細心の注意を払っている
・社内ではiBuyer事業をやるべきかどうかずっと議論があったが、これについては決着した。売り手に「通常仲介」と「即時買取」という2つの選択肢を提示するためにiBuyer事業は継続する
・iBuyerは長期的に継続していく予定だが、財政面のリスクを抑えるために買取物件の数には上限を設ける
まとめると、Redfinはユーザーに選択肢を提示するためにiBuyer事業は継続するものの、財政リスクを考慮して物件買取には上限を設けるということですね。
KWほどではないものの iBuyerの物件在庫リスクに及び腰な姿勢が見て取れます。これは予想ですが、いずれはKWと同様に実業から撤退し、既存の強力なポータルサイトを生かしてマーケットプレイスにシフトするかもしれません。
ニュース③: Realtor.comがマーケットプレイスとしてiBuyer領域に参入
iBuyer未参入企業のうち、市場へのインパクトの大きさから動向に注目が集まっていたのが全米第二位の不動産ポータルサイトRealtor.comです。iBuyerの一大ムーブメントの中にあって沈黙を保ってきた同社が2020年7月23日についにiBuyer領域への参入を発表しました。
といっても自社で物件を買取再販する実業をやるわけではなく、売り手がiBuyer・リースバック・通常仲介といった複数の選択肢から自分にピッタリのソリューションを選べるマーケットプレイスをリリースするという内容です。
現在のところ、iBuyerではOpendoor、HomeGo、WeBuyHouses.comと、リースバックではEasyKnockとパートナーシップを結び、通常仲介は既存顧客である不動産エージェントに紹介するものと思われます。
不動産ポータルサイトの永遠のライバルのZillowが実業でガッツリ参入しているのとは対照的なマーケットプレイスとしての参入。今後どのように進展していくか注目が集まります。
iBuyerマーケットプレイスが次々と登場
これらの最新ニュースを踏まえて改めてiBuyerの業界地図を整理するとこんな感じになります。
一年前は各社がiBuyer実業を行っていたところが枝分かれし、RedfinやKWがそれぞれOpendoor、Offerpadの集客をサポートするという動きが出始めたところでしたが、あくまでそれは個社同士の集客提携の域を出ていませんでした。
しかし、この一年間で業界の再編が進み、ユーザーに対して複数のiBuyerからの買取オファーを提示し、比較検討を可能にするiBuyerマーケットプレイスが多数出現し始めました。
当初よりiBuyerマーケットプレイスとして創業されたSold.comの登場やエージェント検索ポータル最大手のHomeLightの参入により、以前から兆しはあったのですが、今回のKWとRealtor.comの参入により決定的になった印象です。
売り手の集客力はあるけど、物件在庫リスクを抱えたくないプレイヤーが特定個社との提携ではなく、マーケットプレイス化を志向するのは当然の流れです。マーケットプレイス上で複数の選択肢を提示できた方がユーザーにとってもプラスですし、結果として成約率が上がり収益性が高まるからです。
(抜群の集客力を誇るポータルサイトを持つRedfinも、前述の通り物件を抱えることに消極的なので、いずれ実業からマーケットプレイスにシフトするかもしれません)
以前、米国不動産テックのカオスマップの記事で、実業が盛り上がるとそれと対になってマーケットプレイスが登場するという話をしましたが、iBuyerもこの1年間でまさにそのセオリー通りの進化を遂げていると言えます。
最後に、余談にはなりますが、1年前の図に登場していたKnockが今回の図から消えていますが、彼らはTrade-InというiBuyerとは似て非なる事業にピボットしています。
その詳細は別途こちらでまとめています。
iBuyerの買い手版「Trade-In」。次なるユニコーン輩出ビジネスの全貌。
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