iBuyerに続く注目分野「iFunder」。累計4000億円調達のテック企業群を一挙解説

市川 紘(Ko Ichikawa)
12 min readAug 25, 2020

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テック企業が実業リスクをとるきっかけになったiBuyer

米国における不動産業界へのテクノロジー導入、最近流行りの言葉で言うとDX(デジタルトランスフォーメーション)は、ZillowやRealtor.comを筆頭とするマーケットプレイスとBoomtown やDotloopのようなCRMから始まりました。

つまり、それぞれ「集客」や「業務支援」といった、良く言うと裏方、悪く言うとリスクの低い領域が長らくテック企業の主戦場でした。

他方で、仲介会社のような物件売買に直接関わる実業は、財務リスク(固定費や売上ボラティリティの高さ)、オペレーションの煩雑さ(デジタルに置き換えづらい対人コミュニケーションや専門知識)といった観点から、テック企業から敬遠されてきました。

こうした潮目を大きく変えたのはOpendoorやOfferpadの登場です。
彼らは、テック企業がデータアルゴリズムを駆使して物件を自ら買い取り再販するというiBuyer事業をスタート。

不良在庫リスクを懸念する周囲の声を尻目に、物件売却の全く新しい手法として注目を集め、多額の資金調達に成功しながら瞬く間に展開エリアを拡大。この動きを見過ごせなくなった大手企業(Zillow、Redfin、Realogy)が次々と参入し、一大ムーブメントを巻き起こしました。

iBuyerをきっかけにテック企業が実業リスクをとるトレンドに

前述のような「テック企業が自らリスクを取って実業をディスラプトする」というiBuyerのアプローチは、ここ1〜2年の大きなトレンドとなっています。

中でも最近耳にするようになった言葉は「iFunder」です。
これは、物件を「買い取る(Buying)」ことで従来の売買仲介をディスラプトするiBuyerに対し、iFunderはユーザーに「資金を供給する(Funding)」ことによって従来のローンをディスラプトするビジネスモデルの総称になります。

これまで「Trade-In」や「Home Equity Tapping」といった新しい分野を紹介してきましたが、それらも俯瞰して見ると「iFunder」の中の一類型と言えます。

【参考記事】
iBuyerの買い手版「Trade-In」。次なるユニコーン輩出ビジネスの全貌。
次なるユニコーン輩出ビジネス「Home Equity Tapping」解説

「iBuyer」と「iFunder」の勢力図を総まとめ

とは言っても、この分野、あまりに多くのスタートアップが乱立し、似て非なるモデルが入り乱れているため、僕自身も頭がこんがらがることが多かったので、これを機にiBuyer・iFuderの全体を一挙に整理してみました。

横軸でターゲットユーザーを、初めて家を買う一次取得者とすでに家を持っている物件オーナーに分けた上で、ユーザー課題ごとに分解し、それに対応する分野と企業を整理しています。

() 内は各社の累計資金調達額となっており、iFunderだけで調達額は$3,794M(約4,000億円)にのぼり注目度の高さがうかがえます。

①Rent-to-Own: 企業が物件を現金一括で代理購入し、ユーザーはローン確保後に買い戻し

アメリカで中古物件を売却する場合、期間を区切って購入オファーを募集し、受け取ったオファーの中から一番魅力的なものを売主が選ぶという流れが一般的です。
購入オファーを出す際には、金額の高さも重要なのですが、頭金が少なくローン審査落ちリスクの大きいオファーも嫌われる傾向があります。裏を返すと全額キャッシュのオファーは最強ということになります。

こういった商習慣を踏まえて、頭金が少なく購入オファー合戦に勝てない買い手の課題解決を図るのがRent-to-Ownです。

なんと買い手に代わって企業が全額キャッシュで物件を購入してしまい、買い手は当該物件に賃貸で住み、ローンを確保できた時点で企業から物件を買い戻します。

「テック企業が自らリスクを取って実業をディスラプトする」というiBuyer 的アプローチを、「売り手」ではなく「買い手」に応用したとも言えるモデルです。

Rent to Ownのプロセス例 (https://www.flyhomes.com/buy)

②Trade-In: 企業が新住居を現金一括で代理購入し、ユーザーは旧住居を売却できた時点で買い戻し

上記①で説明したRent-to-Ownは、基本的に現時点では物件を所有していない一次取得者がターゲットになりますが、更にややこしいのが今住んでいる物件を売って、次の物件を購入しなければらない買い替えユーザーです。
今住んでいる物件を売ってキャッシュを確保しないことには前述の購入オファー合戦に勝てないものの、旧住居の売却・キャッシュ化と新住居の購入タイミングをピッタリ合わせることは不可能に近いからです。

こういった課題を解消するべく、Trade-In企業は新住居を現金一括で代理購入し、ユーザーに一時的に賃貸しつつ旧住居の売却をサポートします。
旧住居が売却できた時点で、その資金を元手にユーザーは晴れて新住居を買い戻す流れになります。

こちらはiBuyer 的アプローチを「売り手」でも単なる「買い手」でもなく、「買い替え層」に応用したモデルですね。

お気づきの通り、「現金一括(Cash Offer)で物件を代理購入し、一定期間ユーザーに賃貸」という要素はRent-to-Ownと共通で、買い替えユーザー向けに旧住居の売却サポートまでカバーするという点だけが異なります。
(売却サポートについては、旧住居が売却できなかった場合は自社で買い取ることを保証している企業もあります)

Cash Offerというコアの要素が共通であることを生かして、Ribbon、Flyhomes、RealiはRent-to-OwnとTrade-Inの両プログラムを提供しています。

Trade-Inのプロセス例 (https://www.flyhomes.com/buy)

③iBuyer: 価格査定アルゴリズムを活用してユーザーから直接物件を買い取って再販

iBuyerについては何度も解説してきているので、詳細はここでは割愛したいと思います。

最新の動向としては、ここに載っていない一部の大手プレイヤー(KW、Realtor.com、HomeLight)は物件の在庫リスクを避けるために、実際に物件を買取再販する実業を断念。複数の買取オファーを比較検討できるマーケットプレイスにピボットしています。

【参考記事】iBuyer 3大ニュースと最新業界マップ(2020年夏)

iBuyerのプロセス例 (https://www.zillow.com/offers/)

④Online HELOC: オンライン特化で不動産担保ローンをより安く、よりスピーディーに

Trade-Inは今の家を売って買い替えをしたいユーザー、iBuyerは今すぐ物件を引き払って現金化したいユーザーと、いずれも現在の持ち家から引っ越し予定のターゲットを想定しています。

その一方で、当然ながら今の持ち家に住み続けたい物件オーナーも多数存在しています。その中で課題となるのは、持ち家資産はあるものの、現金が逼迫するケースが多々あることです。(アメリカの医療費や学費がべらぼうに高いことやクレジットカードを乱用しがちなことが主な背景です)

こういった課題に対して同じ家に住み続けながら持ち家資産を流動化する「Home Equity Tapping」と呼ばれる分野が盛り上がりを見せています。

その中でも、もっともシンプルなソリューションがHELOC(Home Equity Line Of Credit)です。これは持ち家を担保に一定の借入枠を確保することができる不動産担保ローンの一種です。

HELOC自体は昔からあるローン商品なのですが、金利が高かったり審査が杓子定規で遅かったり通りづらかったりと、従来の銀行が提供するHELOCは機能不全に陥っていました。

それに対してスタートアップのFigureは、独自のデータアルゴリズムを活用したスピーディーな審査や、オンライン特化で店舗固定費を持たないことによる低金利を実現することで差別化を図っています。

Online HELOCと従来型HELOCの比較(https://www.figure.com/home-equity-line/)

⑤Leaseback: 物件を買い取り、転売することなく前オーナーにそのまま賃貸

HELOCとは別のタイプの「Home Equity Tapping」として挙げられるのがLeaseback(リースバック)です。
これは「いっそのこと持ち家は丸々売ってしまって現金化したうえで、そのまま賃料を払って住み続ける」というモデルです。

日本でもお馴染みのモデルですが、意外なことにアメリカでは商業用物件では一般的だったものの居住用物件ではあまり普及していませんでした。ここ数年EasyKnockが台頭し、初めて全国規模でLeasebackビジネスを展開し始めたことで注目が集まっています。

HELOCと比較すると物件の所有権を手放してしまうのがデメリットのように映りますが、そのぶんまとまった現金が手に入る点や固定資産税・保険・メンテナンスから解放される点、ローンと異なり与信審査が不要な点がメリットとして挙げられます。

また、物件を一括現金で買い取るところまではiBuyerと同じでマネタイズが転売か賃貸かで異なるだけなので、iBuyerの類似ビジネスと捉えることもできます。

Leasebackのプロセス例 (https://www.easyknock.com/programs/sellstay)

⑥Shared Equity: 物件売却時のキャピタルゲインに対する権利を現金化

「Home Equity Tapping」の一類型として最後に紹介するのがShared Equityです。これは物件を将来売却する際のキャピタルゲインに対する権利の一部を譲渡する代わりに企業から現金を受け取る仕組みです。企業側からすると不動産の値上がり期待に対して投資をしているという格好になります。

Shared Equityの概念図(https://point.com/how_it_works)

必ず金利が発生するHELOCと異なり費用が発生するのは物件が値上がりしたときだけですし、Leasebackのように物件の所有権を手放す必要はないので、ユーザーにとってはおいしい話ではありますが、企業も将来の値上がり期待をベースに投資判断をするので物件審査が厳しい点が欠点になります。

また最近は、この手法をすでに物件を所有しているオーナー向けではなく、これから家を買う一次取得者向けに応用したLandedという会社も登場しています。
家を買う時点で将来のキャピタルゲインの一部をLandedに譲渡し、そのぶんキャッシュを得ることで頭金にあてるというモデルです。

Shared Equityのプロセス例(https://www.noah.co/how-it-works)

【参考】 iFunderカテゴリーの再整理

冒頭の図はカスタマー課題別に各社の事業モデルを見える化することを優先してマッピングしたため、いろんなレイヤーの分類がごちゃまぜになってしまっていますが、レイヤーを揃えてカテゴリー分けを整理するとこんな感じになります。

iFunder自体が新しい分野で明確なカテゴリー分けがあるわけではないのですが、現金一括による代理購入(Cash Offer)をベースとしたRent to OwnとTrade-In、持ち家資産の現金化(Home Equity Tapping)をベースとしたOnline HELOC、Leaseback、Shared Equityに分けて整理するのが理解しやすいと思います。

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市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。