Opendoor上場!衝撃の時価総額1.6兆円デビューを徹底解説
12月21日にOpendoorがついにNasdaqに上場しました。
9月の投稿で上場スキームや想定時価総額を解説しましたが、大方の予想を大きく上回る$16B(約1兆6000億円)という衝撃的な評価額で上場初日を終えました。
Opendoorはこのブログでも幾度となく解説してきましたが、不動産テック業界を牽引してきたユニコーン企業です。今回の華々しい上場は、近年の不動産テックの盛り上がりの一つの集大成とも言える出来事になったと言えます。
加えて個人的にも、同じベイエリアの不動産テック企業として一緒に仕事をすることも多かったので、とても嬉しく励みになるニュースでした。
今回は良い機会なので、いくつかの切り口で上場マーケットにおけるOpendoorおよび不動産テック企業全体の状況について解説します。
Opendoorの評価額推移
OpendoorがSPACによる上場計画を発表した際には、時価総額$4.8B(約4800億円)となる想定と報道されていました。
これでも直近の資金調達ラウンドの評価額$3.8B(約3800億円)を上回るので、ソフトバンクをはじめとする投資家も一定のリターンを得ることができそう(WeWorkショックの二の舞にはならなさそう)という話を前回の投稿で解説しました。
ところが上場初日、蓋を開けてみると、当初想定を大幅に上回る$16B(約1兆6000億円)という時価総額に到達し、$10Bの大台を軽々と突破。スタートアップ投資が盛んな米国の中でも稀有なレベルの大成功事例となりました。
ここ数年の不動産テック業界は活況で、数多くのスタートアップが数千億円の評価額をつけ、数百億円規模の資金調達を行うケースが頻発していました。しかし、これは裏を返すと、それに見合うリターンを生み出せなければ話題先行で下火になってしまい、ただの一過性のバブルとして終わるリスクもはらんでいました。
そういった意味でも、今回Opendoorが節目の株式上場を果たし、投資家に莫大なリターンをもたらしたことの意味合いは大きいです。「十分な出口戦略がある」という確信を得られたことで不動産テックへの投資が加速され、より大きなムーブメントになっていくかもしれません。
アメリカ不動産企業の最新時価総額(2020年12月時点)
上の図は米国の不動産業界で上場している企業の主だったものの時価総額をまとめたものです。
Opendoor の時価総額はCoStarとZillowの二大巨頭には呼ばないものの、いきなりRedfinの2倍近い水準に到達しており、改めてセンセーショナルなデビューだったことが分かります。
また、俯瞰して見ると、米国を代表する老舗仲介会社RealogyやREMAXの株価が低迷し、CoStar・Zillow・Redfinといったポータルサイトだけでなく同業態の仲介会社の新興企業であるeXpにも大きく水を開けられてしまっている点も、テック企業に市場の期待が集中している世相を象徴しています。
※余談にはなりますが、商業用不動産の雄CoStarが打倒Zillowを掲げて居住用不動産に参入するという頂上決戦は、2020年最大のトピックの一つでした。こちらの動向も要注目です。
【参考】時価総額3.6兆円!商業用不動産テックの覇者CoStarがZillow と全面対決へ
アメリカ不動産企業の時価総額 経年比較
時価総額の経年比較
上の図は12月末時点での各社の時価総額を経年でまとめたものです。ご覧の通り、RealogyやREMAXといった老舗企業が伸び悩む一方で、その他のテック企業が大幅に時価総額を伸ばしていることが分かります。
時価総額の騰落率(対2017年12月比)
時価総額の絶対値だと、そもそもの金額規模が違って若干比較しづらいので、2017年12月時点の時価総額を基準とした騰落率で表してみました。(2017年時点では上場していなかったeXpとOpendoorは除いています)
REMAXが1.4倍成長に留まり、Realogyにいたっては約半分の時価総額に急落する中、テック企業であるZillow・Redfin・CoStarは3〜4倍の時価総額に成長しています。
アメリカ仲介会社の新旧比較
もはやOpendoorとはあまり関係なくなってきますが、仲介会社という同じカテゴリーの中で、老舗企業のRealogy・REMAXと2018年5月に上場したばかりのeXpの時価総額を比較してみました。
こうすることで、「テック銘柄」と位置づけられるか否かによっていかに株価に明暗が分かれるか、より浮き彫りになります。
ご覧の通り、eXpは上場からわずか2年半のうちにアメリカを代表する最大手仲介会社2社を抜き去って、更に引き離してしまった格好になります。
次にこの仲介会社3社の直近四半期(2020年Q3)の業績を比較するとこのようになります。
IRで報告している指標が少しずつ異なるので一概には比較しづらいですが、少なくとも成約数やエージェント数といった規模の観点ではまだまだ老舗仲介会社が一桁くらい差をつけてリードしています。
にもかかわらず、eXpの時価総額が逆転して3〜5倍になっているのはなぜでしょうか。
もちろん成長率の高さもあるでしょうが、eXpが売りにしているバーチャル仲介会社モデル(オフィスや店舗を構えずeXp Worldというオンライン上の仮想空間で不動産エージェントへのサポートを提供する)がWithコロナの時代にマッチしたという背景もあります。
このように同じ仲介会社同士で比較しても、テクノロジーを活用して成長への期待感を醸成できるかどうかによって天と地ほどの差が生まれてしまっています。
※eXpのビジネスモデルは以前詳しく解説しているので、そちらもご参照ください。
【参考】Redfinに続く新世代の仲介会社CompassとeXpの正体
総括: テック企業に投資・人材・M&Aの機会が集中
これまでの内容をまとめると、
・Opendoorが想定を大きく上回る$16B(約1兆6000億円)の時価総額で上場
・不動産業界全体で見るとテック企業の株価が高騰する一方で老舗企業が低迷
・同じ仲介会社同士でもテック企業としてポジショニングできるかによって株価の明暗が大きく分かれる
といったことが起こっています。
このような状況を受けて、RealogyやREMAXもテック企業への進化を標榜していますが、ここまで差が開いてしまうと、相当厳しいと言わざるをえません。
エンジニアを採用しようにも先進的なブランドイメージがあり高い報酬を支払えるテック企業に流れてしまいますし、スタートアップを買収しようにも株価が低迷しているので買収資金の調達が難しく、株式交換による買収もハードルが高くなります。
こうなってくると、今後もOpendoorも含めた時価総額上位の不動産テック企業に投資と人材が集中し、大型のM&Aを繰り返しながらどんどん巨大になっていく可能性が高いです。
現に今年11月にはCoStarがサクッと$250M(約250億円)を投じてHomesnapを買収し、住宅領域を強化しました。このようなM&Aは、もはやRealogyやREMAXにできる芸当ではなく、かつて隆盛を誇った老舗企業も今や完全に蚊帳の外といった状況です。
【参考】時価総額3.6兆円!商業用不動産テックの覇者CoStarがZillow と全面対決へ
更に来年2021年には、Opendoorと双璧を成してきたユニコーン企業Compassも上場するという噂もあります。
このブログでも再三取り上げてきて、ビジネスモデルや収益性に関して疑問を呈してきましたが、現時点での規模や利益よりもテック企業としてのポジショニングや成長期待の方が極端に重視される現状を踏まえると、上場も案外うまくいくのかもしれないと思い始めています。
Compass以外でも、Opendoorの競合のiBuyer企業であるOfferpad、エージェントポータルとして順調に成長しているHomeLight、FlyHomesやPoint、RibbonといったiFunder企業と層の厚い未上場スタートアップが控えており、来年も不動産テックから目が離せない一年になりそうです。
今回の上場を機にOpendoorに興味を持たれた方は、過去記事でその時々の動向や戦略を解説していますので、そちらもご参照ください。
【Opendoorの過去記事】
今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(前編)
今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(後編)
なぜOpendoorは仲介会社を買収したのか
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