Opendoor/Zillow/Offerpad、iBuyer3 強の収益モデルを徹底分析

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Opendoorに続いてOfferpadも上場を果たし、活況の続くiBuyer市場。かつては収益モデルが謎に包まれていましたが、上場企業が増えてきたことで様々な情報がオープンになってきています。

中でも、不動産テック評論家のMike Delprete氏のiBuyer3社(Zillow・Opendoor・Offerpad)の分析がとても興味深かったので、これの翻訳をベースにしながら解説をしたいと思います。
https://www.inman.com/2021/06/10/offerpad-is-a-more-profitable-flavor-of-ibuying-mike-delprete/

まずはこちらのデータをご覧ください。

これは各社の1物件あたり最終利益をまとめたものです。
Zillowが1物件あたり$29,517の赤字、Offerpadが1物件あたり$12,998の赤字を出しているのと対照的に、Offerpadは1物件あたり$229の赤字に留まり、黒字化まであと一歩のところまで迫っています。

同じiBuyerビジネスでありながら、なぜこのような収益構造の違いが生まれるのでしょうか。いくつかのデータからOfferpadの高いパフォーマンスの要因を紐解いていきます。

粗利率: OfferpadとOpendoorに大きな差はない

ここでいう粗利を計算する上で、原価は物件の取得原価、売上は転売価格とそれに付随する周辺領域売上(ローン・登記・決済・リノベーションなど)を指します。

ご覧いただいて分かる通り、Zillowの粗利率は他の2社と比べて低いです。これは物件仕入れの段階で高値掴みをしているか、仕入れ後の転売時にあまり利益を乗せられていないということを意味します。
つまりは、買取再販のオペレーションがうまく回っていないのか、あるいは意図的に赤字覚悟でとにかく物件を回転させマーケットシェアを取りにいく戦略のどちらかでしょう。

一方で、OpendoorとOfferpadに関してはほぼ同水準の粗利率で推移しています。つまりZillowはともかくとしてOpendoorとOfferpadの1物件あたり最終利益の差分要因は粗利ではないことになります。

※追記: この記事を書いている最中の2021年10月18日にZillowは年内の物件買取を停止すると発表しました。表向きは「需要に対する人手不足」と発表していますが、裏側ではこのあたりの収益性課題も影響しているかもしれません。これについては情報が集まり次第、改めて記事にできたらと思っています。

販管費: Opendoorの間接費はOfferpadの約3倍

粗利に差がないとすると、当然ながらOfferpadとOpendoorの収益構造の差は販管費にあるということになります。2020年通期の粗利率から最終利益率までの構造をウォーターフォールチャートでまとめてみました。

ご覧の通り、出発点の粗利率はOpendoorが8.5%、Offerpadが8.2%とほとんど差がありません。その後に続く、「販売費」「物件管理費」「支払利息」といった物件の買取再販に直接関係する費用も誤差の範囲内と言えます。
そんな中で唯一大きな差があるのが「間接費」です。売上に占める間接費率が5.5%のOfferpadに対してOpendoorは14.6%と3倍近い率になっており、これが両社の収益構造の違いを生み出しているのです。

間接費: Opendoorはシステム開発費と本社費に過剰投資?

間接費と言っても内容は多岐にわたりますが、米国のIR情報の分類(広告宣伝費・本社費・システム開発費)に沿って数字をまとめてみました。

Opendoorの取引件数(転売した物件数)はOfferpadの2.3倍なので、広告宣伝費が2.5倍かかっているのは妥当な結果と言えます。

一方で本社費とシステム開発費はそれぞれ8倍を上回り、2.3倍という取引件数の倍率を大幅に上回る金額に膨れ上がっています。つまり投入した資金に対して十分な結果につながっておらず過剰投資と捉えることもできます。

簡単に言うと、Opendoorはシステムをガンガン開発して、本社にスタッフもたくさんいて、一等地にイケてる豪華なオフィスを構えてるということですね。
一方でOfferpadはどちらかというと現場主義で、システム開発や本社機能への投資はそこそこに、現場で愚直に買取再販をガシガシ回している感じでしょうか。

データアルゴリズムを活用した次世代型の買取再販業としてブレークしたiBuyerですが、テクノロジー重視でいわゆるテック企業のアプローチをとるOpendoorよりも、不動産業界での経験を生かして地に足をつけて事業運営しているOfferpadの方が収益性が高いという結果は、とても興味深く示唆に富んでいると思います。

このあたりのカルチャーの違いは経営陣の陣容を見ても如実に表れていて、AmazonやAirBnBやUberなどキラキラしたテック企業出身者がほとんどのOpendoorに対して、Offerpadは約半数がコテコテの不動産企業出身です。

Opendoorの経営陣。大手テック企業の出身者がズラリと並ぶ
Offerpadの経営陣。不動産業界出身者が多い。

時価総額: Opendoorは過剰投資ではなく未来への投資?

本家のMike Delprete氏のレポートはOpendoorのシステム開発費と本社費の過剰投資をメインの主張としているのですが、ここであえてもう一つ別の切り口を付け加えたいと思います。

先ほどのOpendoorとOfferpadの倍率比較に時価総額を加えると、また見え方が異なってきます。取引件数の差は2.3倍なのに時価総額では8.1倍の差が開いているということです。

この8倍の時価総額の差は直近の実績では到底説明がつかず、iBuyer業界トップというブランド力と、将来にわたっての成長期待からくるものと言えます。

そして、Opendoorが投資家からそのような成長期待を集めているのは、以下のような流れです。
①Opendoorの「iBuyer業界トップ」というNO.1ブランドを確立
②NO.1ブランドを生かして市場から資金調達
③豊富な資金力でTrade-Inやローン、リノベーションといった新規事業をローンチ
④iBuyerに留まらず住み替え全般のイノベーションを起こす企業として投資家から更なる期待を集める

つまり、システム開発や本社スタッフへの積極的な投資が新規事業創出を支えていて、それが投資家からの期待ひいては時価総額の向上につながっているわけです。そうと考えると、あながちこれが無駄な過剰投資とも言い切れない側面もあります。

逆に言うと、Offerpadは手堅くiBuyer事業を運営していて、その収益性は競合を大きく上回る一方で、株価や時価総額といった観点ではOpendoorほどの期待を集められていないということです。

もちろん会社として目指すゴールは様々ですが、もし時価総額の最大化を目指すのであれば、業界のNO.1になってブランドを確立することで株価を上げ、豊富な資金を調達して、2番手以下にはできない未来への投資をすることで更に株価を上げる。こういうサイクルを作る必要がありますし、そのためにはやはり2位ではダメで1位にならないといけないということですね。

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市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。