Opendoorがついに上場へ。バリュエーションと上場スキームを徹底解説

市川 紘(Ko Ichikawa)
10 min readSep 18, 2020

米国不動産テックのユニコーン企業の一角、Opendoorがついに上場を果たすというニュースが飛び込んできました。

Opendoorは僕の会社と同じくベイエリアをベースとする不動産テック企業なので、CEOのEric Wuをはじめ経営メンバーとも仲が良いですし、実際にパートナー事業も展開しています。
また、このブログでも何度もニュース解説として登場してもらってお世話になっていることもあり、今回のニュースは個人的にも感慨深いです。
(念のためですが、このブログでのニュース解説はすべて公開情報をベースにしており、守秘義務契約に抵触するような情報は一切発信していません)

コロナ前に打ち合わせで訪問したサンフランシスコのOpendoorの本社オフィス。内装は「家」のコンセプトで統一されていて、受付には家族写真のように社員の子供の頃の写真が飾られています。

まだスクープの段階で十分な確定情報は出ていないのですが、現時点で分かっている範囲で、
1. バリュエーション
2. 上場スキーム

の2点について解説します

1. バリュエーション

まずは上場時のバリュエーションがどうなりそうか、既存投資家にとって成功と言えるExitになりそうかを見てみたいと思います。

それにあたって参考までに、まずは最新のテック企業と不動産テック企業の事例をいくつか紹介します。

テック企業事例①: Slack

2019年6月に上場を果たしたSlackは初日終値で時価総額$19.5B(約2100億円)を叩き出しました。これはSeriesAの初期投資家からすると800倍以上、一番最後のSeriesHから参加した投資家でもわずか1年足らずで3倍近いリターンになったので、Exitとしては成功と言えます。

テック企業事例②: Zoom

続いて同じく2019年の4月に上場したZoomです。初日終値が$14.4B(約1600億円)と直近のSeriesDと比較しても14倍以上と驚異的なリターンとなってます。
(上場後の話になるので余談にはなりますが、ご存知の通り今年に入ってから新型コロナウイルスによるリモートワークの加速もあり、時価総額は$123B(約13兆円)まで急成長しています)

このように2019年に上場した代表的なテック企業2社は、バリュエーションが会社の成長とともに右肩上がりに伸び、各ラウンドの投資家がそれぞれリターンを得られる理想的なExitとなったと言えます。

次に不動産に関連するテック企業の最新事例を見てみましょう。

不動産テック企業事例①: AirBnB

上場間近と目されていたAirbnbは新型コロナウイルスの影響により業績が急激に悪化。1900人のリストラだけでなく、前回と前々回のラウンドを下回る評価額での資金調達を余儀なくされ、既存株主の利益を損ねる結果となりました。

不動産テック企業事例②: WeWork

更に苦しかったのはWeWorkです。上場に向けて申請手続きまで始めたにもかかわらず、目論見書の内容に懐疑的な意見が殺到し、上場を断念。

その後も会社の将来性や経営陣に対する疑問の声を拭えず、最終的にこれまでの評価額を大幅に下回る$7.8B(約8500億円)という評価額でSoftbankに救済される結果となりました。

ここ数年盛り上がりを見せていた不動産テック業界ですが、このように有望株の目されていた2社でダウンラウンド(追加増資を行う際の株価が前回を下回ること)が相次ぎ、業界全体に若干の停滞ムードが漂い始めてしまいました。

そんな中で飛び込んできたのがOpendoorの上場のニュースです。
もともと注目度が高いユニコーン企業で、iBuyerという一大ムーブメントを巻き起こしたこの会社がサクセスストーリーを描き、成功事例になれるかどうか。不動産テック業界の今後を占う上でも否が応でもここに注目が集まっています。

さて、肝心のバリュエーションですが、当然上場して市場に問わない限りは分からないものの、今のところ$4.8B(約5200億円)を見込んでいるとされています。SeriesAと比較すると150倍近く、直近のSeriesEからも1.3倍とSlackやZoomのような派手さはないものの利益が出る数字となっています。

繰り返しになりますが、最終的には上場するまで何が起こるか分かりませんが、今の想定通り事が進むと、ここ数年の不動産テックの勢いを象徴する案件になり、この業界を更に勢いづかせる後押しになる可能性が高いです。

※TechCrunchでは$4.8BはCashとDebtも足し合わせたEnterprise Valueであり、Equity Valueは$6.3Bと報道されていますが、それ以外のニュースは$4.8Bをバリュエーションとして報じているので、ここでは保守的に$4.8Bを使用しました。
https://techcrunch.com/2020/09/15/opendoor-to-go-public-by-way-of-chamath-palihapitiya-spac/

2. 上場スキーム

次に上場のスキームについて少し解説をします。というのも、今回のOpendoorの上場はSPAC(Special Purpose Acquisition Company: 特定買収目的会社)を介する若干イレギュラーなスキームになる予定だからです。

SPACは事業を運営していないのに上場されている不思議な企業体です。将来的に未上場企業を買収・合併することにより実質的に上場させることを目的とし、まずは上場企業のハコと買収資金だけ先んじて準備しておくのです。上場時点では将来どんな企業に目をつけて買収するか株主は知りませんが、SPACの代表の目利きを信じて投資する形になります。

今回、Opendoorを買収・合併し、上場させるのはSocial Capital Hedosophia II。創業期のFacebookにジョインしVPを務めていたChamath Palihapitiyaが代表として率いているSPACです。
(今回は2号ファンドなのですが、1号ファンドはRichard Bransonが設立した宇宙旅行ビジネスVirgin Galacticを上場させています)

2020年4月28日にSocial Capital Hedosophia IIをIPOしたときの様子。真ん中左がCEOのChamath Palihapitiya。繰り返しになりますが、この時点では「将来未上場企業を買収・合併して上場に導く」ということだけが決まっています。(https://www.bizjournals.com/sanjose/news/2020/04/28/palihapitiya-social-capital-blank-check-ipo-iopbu.html)

まだ情報が断片的なのですが、おそらくキャッシュ+新会社の株式交換によって現Opendoorを買収・合併することで上場させるのではないかと思われます。スキームとしてはこんな感じのイメージです。

Opendoorにとって、自社単独での一般的なIPOではなく、このSPACを介する上場スキームを選択することのメリットは大きく二つあります。

一つは、すでに上場している会社に買収・合併され、結果的に上場企業に仲間入りするという立て付けなので、一から自社で上場準備をするよりも手続きがスピーディーである点です。

新型コロナウイルスリスクが読めない中でそこまでして上場を急ぐのか?という話はあるものの、幸いにして不動産業界は空前の低金利の後押しもあって堅調に推移していますし、あまり先延ばしにして11月の大統領選や冬に入ってからのコロナ第二波などに振り回されたくないという判断なのかもしれません。
【参考】統計データから見るアメリカ不動産市場へのコロナの影響

二つ目は、自社で上場するときのように目論見書を事前に提出する必要がないので、色んな人から重箱の隅を突かれずに済むというメリットです。上場目論見書にケチがついたところから始まったWeWorkの惨劇を目の当たりにして、Opendoorはこの点を確実に意識しているはずです。

最後にSocial Capital Hedosophia IIの株価ですが、Opendoor買収が報道された直後に急上昇しました。その後、一段落はしているものの、基本的に市場は今回の買収を好意的に受け止めているようです。

参考までに過去に投稿したOpendoorに関する記事をまとめておきます。Opendoorのビジネスモデルや戦略の変遷を確認したい方はどうぞ。

【Opendoorの過去記事】
今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(前編)
今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(後編)
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市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。