ざっくり解説!コロナ影響下の2020年米国不動産マーケット統計データ

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2020年3月に新型コロナウイルスによってロックダウンが宣言され、株価が低迷し、経済活動が制限されたときには、リーマンショックのような危機の再来を危惧する声が不動産業界でも上がりました。
しかし、蓋を開けてみると、不動産業界は意外なほどすぐに持ち直し、好況のまま2020年を終えました。

不動産業界の好況ぶりはニュース等でも伝えられていますが、今回はRedfin Data Centerのデータを使用して、より定量的に2020年のマーケットが通年でどのように推移したのかを見てみたいと思います。

※いずれのデータも中古物件売買に関する4週移動平均の統計データで、2018年・2019年・2020年の実数と前年比の推移を示しています。エリアはRedfin展開エリアに限定されていますが、同社は国内の主だったマーケットは網羅しているのでアメリカ全体の傾向と一致しています。

成約物件数

こちらは中古物件売買の実数と前年比の推移を示したものです。ご覧の通り、ロックダウンの影響を受けた4〜6月には大きく落ち込んだものの、7月以降は2018年・2019年を大きく上回る水準で推移しました。

通年で見ると、当該エリアの年間成約数が2018年・2019年がともに347万件だったのに対し、2020年は345万件とほぼ同じ水準で着地した格好となります。

好調な不動産市場の背景として、在宅勤務に浸透によって都市部から郊外への移動が増加したというニュースが取り上げられがちです。しかし、これはあくまでごく一部の都市部のトレンドに過ぎません。何より大きな後押しとなったのはコロナの影響で住宅ローンが空前の低金利となったことです。

2000年以降の住宅ローン金利推移。各種住宅ローン(30年固定 /15 年固定/5年固定+変動)ともに過去最低水準に。

新規販売物件数

こちらは新規に売り出しを開始した中古物件の数の推移です。一見すると前項の成約数と似たような波形ですが、成約数が7月に回復してから前年比+20%で推移したのに対し、新規売り出し物件数が+10%にとどまっている点が異なります。

・買い手と異なり売り手にとって低金利は直接的なメリットにならない
・感染リスクの観点から、オープンハウスや内見で不特定多数の購入検討者が自宅に出入りすることに抵抗感がある
といった要因から物件売却ニーズは7月以降もそれほど回復していないと言えます。

通期の新規販売物件数は、2018年418万件、2019年413万と推移した後、2020年は388万と大幅に下落しており、過去2年のトレンドと同水準を維持した成約数とは対照的です。

販売中の物件数

これまでの話をまとめると、低金利に後押しされて購入需要は旺盛なのに対し、売却需要は売却活動に伴う感染リスクの影響もありそれほど回復していないということになります。

マーケットで販売中の物件数を比較すると、上のグラフのように2020年は過去2年と比較して在庫が逼迫してきているのが分かります。

つまり一言でいうと、アメリカの不動産は供給が需要に追いつかない売り手市場になっているということです。

成約までの販売期間

売り手市場を物語るもう一つのデータが、各物件が平均何日間売りに出ていたのかを示すこちらのグラフです。言い換えると、1物件が売れるのにかかる日数ということです。

パンデミック以前は過去2年と同じ水準で推移していましたが、8月以降に大きくトレンドが変化します。通常であれば冬の閑散期に向けて販売期間が長引くのですが、2020年は右肩下がりに販売期間が短縮。11月・12月には30日間を下回り、まさに「出せば売れる」という状態になっています。

成約物件価格

最後に成約物件の価格推移を見てみましょう。
もともと2020年は過去2年よりも成約価格が高めで推移していたのですが、こちらも8月以降一気に跳ね上がり、大台の30万ドルを突破しています。

この物件価格高騰の背景には、
・売り手市場で物件の供給が需要に追いついていない(買い手間の競争が激しくなっている)
・低金利によって買い手が購入可能な物件価格が引き上げられた
といった点が考えられます。

2021年の展望

2020年の成約件数は横ばいに踏みとどまり、成約価格は大幅上昇しているため、アメリカの不動産業界の手数料収入市場は好調に推移しています。今後出揃ってくる不動産企業各社も好決算となることが予想されます。

果たしてこの好調な市況は2021年も続くか。それ占う上で重要なポイントは三点です。

①住宅ローン金利
購入需要を下支えしているのが空前の低金利であることから、これがいつまで続くかがポイントになります。FRBは2020年9月時点で2023年まで政策金利の利上げは行わないことを示唆していますが、民主党への政権交代や新型コロナウイルスの感染状況などの外部要因によって、政策金利の方針がどのように変化するか注目する必要があります。

②売り手の売却意向
新規販売物件数の項目で解説したとおり、購入需要が盛り上がっている買い手と比較して、売り手のマインドはそこまで回復していません。

2020年の年末以降、アメリカでは新型コロナウイルスの感染が再度拡大。医療崩壊を起こし、二度目のロックダウンに突入している地域もあります。加えて感染力が高いと言われる変異種のリスクもあります。こうした感染リスクの拡大から、より多くの売り手が物件の売却を先送りにする可能性は十分にあります。

2020年は在庫が逼迫しつつも買い手は希望の物件を見つけられていましたが、更に新規販売物件数が落ち込んで選択肢が狭まると、全体の成約数に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため売り手の売却意向が、これ以上冷え込むかどうかが今後重要なポイントとなります。

③ホワイトカラーの雇用状況
新型コロナウイルスの影響で「アメリカの失業者数が世界恐慌以降で最悪の水準となった」というニュースは日本でも報じられていましたが、失業者の大半は感染拡大によって直接的なダメージを受けた小売業やサービス業の従事者でした。

不動産購入のメインターゲットとなるいわゆる「ホワイトカラー」の業種での失業者は少なかった点がリーマンショックとの大きな違いであり、不動産市場への悪影響が少なかった要因です。

しかし、今後、新型コロナウイルスの感染拡大が長引き、より広範な実体経済にダメージが及ぶと、ホワイトカラーの失業者が増加し、不動産市場に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。

以上、リスクシナリオを3つ挙げましたが、逆に言うとこれらのリスクシナリオが発生しない限り2021年もアメリカの不動産市場が落ち込む要素は見当たらないので、このまま好調に推移する確率の方が高いと個人的には思います。

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市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。