IPOラッシュ!上場予定の米国不動産テック企業4社を紹介

以前投稿した「【米国不動産テック】2020年総まとめ&2021年展望」の記事で、2021年はSPAC×不動産テックの組み合わせで上場する企業が増える可能性が高いと解説し、その予備軍として15社を下の図を使って紹介しました。

【米国不動産テック】2020年総まとめ&2021年展望より再掲

予想が当たって自画自賛するわけではないですが、まだ4月を終えた時点なのにこの中から4社が上場見込みで、加えて2社が大型の資金調達を行いました。不動産テックへの期待と市場全体のカネ余りが相まって、予想以上のハイスピードで上場や資金調達が続出しています。

以下が上場予備軍として紹介した企業と、2021年に入ってからの資本政策の動きをまとめたものです。

こうしてみると、コロナ禍によって非対面ニーズの高まっている後工程(ローン・登記・決済・保険)のカテゴリーが特に盛り上がっているようです。一方で、今は極端な低金利・物件供給不足・物件価格高騰という異例のマーケットなので、iFunderのような全く新しい金融モデルは一旦様子見という判断のように見えます。

今回はすでに上場を発表している4社のビジネスを簡単に紹介していきたいと思います。これさえ読んでいただければ最新の不動産テックトレンドをキャッチアップできます!

Knock:買い替えに特化した従来のローンとは異なる金融ソリューション

https://www.knock.com/

もともとKnockはOpendoorやOfferpadと同時期にiBuyerモデルでしのぎを削っていたスタートアップなのですが、紆余曲折を経てTrade-Inという物件買い替えに特化したプロダクトにピボットしています。

物件を買い替え予定のユーザーは、現住居の売却と新住居の購入のタイミングをうまく揃えないと、
・現住居のローンが残っているので新住居のローン審査が通らない
・審査が通っても現住居と新住居の二重ローンで支払い負担が大きくなるという
・住み替えタイミングが合わず、一時的に賃貸に住んで無駄なコストや引っ越しの手間が発生する
といった課題に直面します。

そのような課題に対して、Knockは現住居の売却可能性を加味して新住居購入費用をローンとして貸し出します。さらに物件購入後には現住居の売却をサポートするのですが、その間にローンが二重払いにならないよう、売却が成功するまでKnock側で現住居のローンを立て替え払いをするという流れになります。

①事前審査→②まずは新住居を購入→③それから現住居を売却という流れ( (https://www.knock.com/how-it-works)

以前は新住居をKnockが代理購入・一時的に所有して現住居売却後にユーザーに買い戻してもらうフローだったのですが、現在はローンを貸し出す金融機関の立ち位置に変更しているようです。

ただ、
・現住居のローンが残っていることを与信リスクとして一概にマイナス扱いせず、現住居が売れる可能性を審査に織り込む点
・現住居が無事に売れるまでローンを立て替え払いするところまでコミットしている点
から従来の一般的なローン企業よりもリスクをとって踏み込んだソリューションと言えます。

こういった従来の住宅ローンとは異なる形でユーザーに資金提供する企業は総称してiFunderと呼ばれており、Knockはそのカテゴリーの中で初の上場企業となる見込みです。

【参考記事】
iBuyerに続く注目分野「iFunder」。累計4000億円調達のテック企業群を一挙解説

Doma(旧 States Title):機械学習によってタイトルレポート作成を高速化

https://www.statestitle.com/

日本のような登記簿の存在しないアメリカではタイトルカンパニーと呼ばれる専門の業者が物件の権利関係を調査してレポートを発行し、これが売買契約やローン契約の材料として使用されます。

ただ、このタイトルレポートの仕組みは1890年代に整備されたもので労働集約的な業務のため、発行まで時間がかかってしまいます。ここに目をつけたのがDomaです。

同社は機械学習による権利関係調査・レポート作成の自動化の特許を取得済みで、これによって通常5〜10日間かかるタイトルレポート作成の所要時間をわずか1分に短縮できます。
不動産取引にもこれまで以上にスピード感が求められる中、Domaのソリューションは多くのローン会社・不動産エージェント・保険会社に支持され、これまで80万件以上の不動産売買取引に利用されています。

https://www.statestitle.com/instant-underwriting/

Hippo: 「シンプル」「現代的」「先回り」をコンセプトにオンライン住宅・家財保険を提供

HippoはHome Insuranceという日本でいうところの住宅保険+家財保険を提供するスタートアップです。同社のプロダクトの特徴は「Simple」「Modern」「Proactive」という3つのキーワードで表されます。

Simple(シンプル): これは従来の店舗ベース・紙ベースのプロセスをオンラインに切り替えることでスピードアップ・コスト削減を実現するという、この手のスタートアップの王道パターンですね。
Hippoも店舗や営業を持たないオンライン完結の申し込みプロセス、機械学習による見積もり作成の自動化によって、見積もりが60秒で取得でき、保険料が最大25%安くなります。

https://www.hippo.com/

Modern(現代的): 「現代的」というのはどういうことかと言いますと、補償内容がより時代に即した形にカスタマイズされているということです。具体例としては、コンピューターや電化製品により手厚い保障が付いていたり、昨今の異常気象の増加に対応するべく災害時のライフライン(電気・ガス・水道)への補償も強化されています。何か被害があった場合のハウスクリーニングやベビーシッターといったソフトサービスの補助もあります。

https://www.hippo.com/

Proactive(先回り): 個人的にHippoの特徴が一番際立っていると思うのが、このProactiveというコンセプトです。被害を事後的に金銭で補填するのが従来の保険の考え方ですが、Hippoは先回りして被害を未然に防ぐソリューションを提供しています。そのぶんHippo側の保険金の支払いを抑えられるのでユーザー側のコストも抑えられるという非常に合理的なアプローチです。

具体的にはスマートホーム機器を無料で配布し、家をモニタリングすることで火事や水のトラブル、泥棒を未然に防いでします。
またHippo Home Careという専属のチームがユーザーをサポートする仕組みもあります。このチームはユーザーからの家に関する問い合わせに対応するだけでなく、リアルタイムのデータをもとにリスクを予想し、事前にユーザーに連絡するフローもあります。
例えば、2021年の冬にテキサスで大雪被害が発生した際には事前に個々のユーザーに連絡を取り、ビデオ通話で水道管の破裂を防ぐための処置を案内することで被害を最小限に食い止めました。

https://www.hippo.com/

Offerpad: ライバルOpendoorに次ぐ上場。iBuyerを軸にTrade-Inや通常仲介も展開

OfferpadはOpendoorと同時期に台頭し、iBuyer業界を牽引してきたスタートアップです。当時、三つ巴のライバルだったKnockには勝利したものの(それによってKnockは前述のようにTrade-Inにピボット)、Opendoorを上回ることはできなかった二番手という立ち位置です。そして、2020年12月に華々しく上場を果たしたOpendoorに遅れまいと今回SPACでの上場を発表しました。

改めて説明するまでもなく同社のメインビジネスはiBuyer(データアルゴリズムを活用した不動産買取再販業)なのですが、このメインビジネスをベースに業態を広げているので整理してみます。

【売り手向けビジネス】
Sell directly to Offerpad(Offerpadに直接売却=iBuyer):
・24時間以内に現金買取のオファーを受け取ることができる
・内見や訪問見積もりも不要(必須ではないが、より精緻な見積もりのために写真やTV電話が推奨)
・売却日はオファー受託後1日〜3ヶ月の間で自由に選択でき、売却後も賃料支払いをすることで最大2ヶ月間同じ家に居住可能(=住み替え先とのスケジュールを合わせやすい)
・特典として地元エリア内の引越しサービスを無料で提供

Partner with Offerpad to list it(Offerpadに仲介を依頼)
・より多くの買い手に訴求できる通常仲介で、高値での売却に挑戦できる
・内見用のハウスクリーニングを無料で提供、リフォーム費用をOfferpadが前払い
・Offerpadの専任チームが売却活動をサポート
・Offerpadからの現金買取オファーにいつでも切り替えることができる

https://www.offerpad.com/

【買い手向けビジネス】
Buy a home(Offerpadによる通常の物件購入仲介)

・最大1000ドルの契約費用サポート
・専門チームが物件購入をサポート
・Offerpad保有の新規物件情報に通常よりも早くアクセスできる

Home trade-in(現住居をOfferpadに売却し、新住居を現金で購入)
・Offerpadの現金買取オファーを現住居の売却に活用
・Offerpadが住み替えのスケジュールを柔軟に調整することで二重ローンや不要な引っ越しの発生を避ける

https://buy.offerpad.com/

ここで興味深いのは、Offerpadが積極的にビジネスを拡大しているように見えるものの、結局各社が提供しているサービスが似通ってきている点です。

売り手向けの「現金買取オファー」と「通常仲介」の二段構えはOpendoorも全く同じですし、買い手向けのTrade-InはそもそもKnockがOfferpadやOpendoorとの真っ向勝負を避けるためにピボットして始めた事業です。

更に興味深いのは、OpendoorとOfferpadはこのようにビジネスモデル上の差はほとんどないにもかかわらず、業界の1位か2位かで時価総額が4倍ほどの差がつき、まさにネットの世界の「Winner takes all(勝者総取り)」を体現している点です。

少し話は逸れますが、もし5年前にSoftbank Vision FundがOpendoorではなくOfferpadに出資していれば、ビジネスモデルが同じで当時のマーケットシェアに大きな差がなかったことを考えると、おそらく結果は逆になっていたでしょう。改めてSoftbank Vision Fundの札束作戦のインパクトの大きさを実感します。

【参考記事】
今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(前編)
Opendoor450億円/Compass450億円 ソフトバンクの大型出資を徹底解説

以上、これから上場を控えている4社を紹介しました。今の市場環境や業界の勢いを踏まえると不動産テック企業の上場の流れはまだまだ続く可能性が高いです。
特に後工程のデジタル化の流れが顕著で、リストの中でいうとQualiaやSnapdocsにはかなりの追い風と言えます。上場や資金調達、買収といったニュースは今後も随時このブログで更新していきたいと思います。

※ブログよりもクイックに最新情報を発信するためにTwitterも始めました。フォローよろしくお願いします。https://twitter.com/Ko_Ickw
※転載・引用は歓迎ですが、クレジット記載をお願いします。
※ご質問やご要望がある場合は、こちらにご連絡ください。proptechblog@gmail.com

--

--

市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。