ZillowがiBuyer事業から撤退!その理由と今後の戦略とは?

目立ち始めていたZillow Offersの収益性の悪さ

さかのぼること2年半前、アメリカの最大手不動産ポータルZillowは「Zillow Offers」というiBuyer事業を開始し、今後の成長戦略の柱に据えることを発表しました。その本気ぶりは当時の投稿「Zillowの本気で加速するiBuyer戦争。対峙するOpendoorの秘策とは?」でも紹介した通りです。

それからZillowは宣言通り買取再販の取引数を伸ばし、業界トップのOpedoorには及ばないものの第二位のOfferpadを抜き去り、あっという間にiBuyer大手の一角を占めるようになりました。

iBuyerの買取物件数推移

ZillowがiBuyer事業におけるマーケットシェアを伸ばす一方で、様々なデータからZillow Offersの収益性の悪さも明らかになってきました。これは先月の投稿「Opendoor/Zillow/Offerpad、iBuyer3 強の収益モデルを徹底分析」でも解説した通りです。

記事内のグラフを下に再掲しましたが、簡単に言うとZillowはOpendoor・Offerpadと比較して粗利率( 粗利=転売価格+周辺領域売上−物件取得原価)が低く、結果として1物件あたり最終利益が大幅な赤字になっているという話でした。

最終利益が黒字に近づいているOfferpad、本社費・システム開発費の重たさから赤字になっているものの粗利率はもっとも高いOpendoorとは対照的に、Zillowは粗利率が低くなっています。
これは「物件を適正な値段で買い取り、適正な利幅を乗せて転売する」という買取再販のオペレーションそのものがうまく回っていないことを物語っています。

とはいえ、Zillowには競合とは桁違いの資本力があるので、オペレーションを徐々に改善しながらiBuyer事業を推し進めていくというのが大方の予想でした。

急転直下のZillow Offers撤退

ところが、2021年10月18日、同社はZillow Offersの物件買取を年内いっぱい凍結すると発表しました。この理由として「増加し続ける需要に対する人手不足」を挙げましたが、誰もがこれはIR上の方便で実際は前述の収益性の悪さや不良在庫が真の理由だと予想しました。

そして迎えた11月2日、ZillowはiBuyer事業から完全に撤退することを発表しました。これに伴い全体の25%にのぼるZillow Offers担当スタッフを解雇し、現在保有している物件の在庫処理のために500億円以上の減損を計上することもあわせて発表しています。

撤退の理由として、
・価格予測の不確実性が予想を超えており、Zillow Offersの拡大を継続すると売上やバランスシートのボラティリティーが過剰になってしまう
・iBuyerビジネスを安全に運営できる水準まで未来の住宅価格を正確に予測することができなかった

という点を挙げており、当初発表の「人手不足」ではなくこれが本音なんだろうと思います。

Zillowは長年、アメリカの不動産テックの覇者として君臨する圧倒的な存在ですが、彼らが主戦場としてきたのはあくまでバーチャルな世界でした。基本的には物件情報はMLSから取得することができるので、極論するとあとは物件の買い手に向けてユーザビリティの高いウェブサイトさえ開発すれば良かったわけです。

iBuyer事業もデータドリブンで価格予測ができれば運営していけると考えてスタートしたものの、
・ターゲットが従来の「買い手」ではなく「売り手」になる
・現場での買取再販の細かな調整やオペレーションが要求される

といった観点からZillowの経験・ケーパビリティが通用しなかったというのが今回の失敗の根本原因だと思います。

ここまでがこれまで起こった出来事のまとめです。ここからは未来に向けた話として「Zillowの今後の戦略」と「iBuyerビジネスの未来」について書きたいと思います。

Zillow Offersに「本気」だったが「固執」もしなかった

2年半前の発表で創業者のRich Bartonが「iBuyerをやるために社長に復帰する」とまで宣言し、あれだけ本気を見せていたのにあっけなく撤退。Zillowの変わり身の早さには驚かされましたが、実際に相当な数の社員採用と物件買取を行っているので、ここ2年半はiBuyerに「本気」であったことは事実でしょう。ただ、同時にiBuyerに「固執」もしていなかったというのが実態だったんだと思います。

Zillowとしては、「ポータルだけ粛々と成長させていっても手詰まり感があるので、何か話題性のある事業をスタートして時価総額を最大化したい」というニーズがまず大前提にあって、そこに当時破竹の勢いで伸びていたiBuyerビジネスを据えただけ。iBuyerがうまくいかなければ固執するつもりもなかったということです。

ですので、今回のZillow Offersの閉鎖を失敗として捉えることもできる一方で、この規模の会社でこれだけの大きなチャレンジをして、結果が出ないときはそれを引きずらず素早く撤退判断をできるのはすごいことだと思います。

買い手向けビジネスに原点回帰する戦略か

投資家の期待を集めZillowの株価を牽引していたiBuyer事業から撤退した今、注目されるのは今後何を主戦略に据えるのかという点です。
これに関しては、以下の二つの理由から買い手向けビジネスに原点回帰する可能性が高いです。

理由①: 企業としての強みを生かす
ZillowのiBuyer事業失敗の要因として、買取再販のオペレーションに不慣れだった点と並んで考えられるのが、買い手向けビジネスを得意とするZillowにとって売り手向けビジネスでは強みを生かしきれなかったという点です。
そういった意味ではすでにユーザー数を大量に抱えていて、長年の経験からニーズも理解できている買い手に再度ターゲット設定するのが理に適っています。

理由②: 不動産ポータルの競合激化
Zillowのメイン事業の買い手向け不動産ポータルも決して安泰とは言えず、競合のRealtor.comやRedfinは依然として手強い存在ですし、手前味噌ですがそれに次ぐMovotoもAIスタートアップOJOとのM&Aにより攻勢を強めています。
更には商業用不動産プラットフォームの巨大企業CoStarが住宅売買領域にも参入しており、本業のポータルが揺らぐことのないよう盤石な体制にするのが至上命題です。(もしかすると、これがiBuyer事業の早期撤退のもう一つの理由かもしれません)

【参考記事】時価総額3.6兆円!商業用不動産テックの覇者CoStarがZillow と全面対決へ

買い手向けにEnd-to-Endのサービス展開

MLSから物件情報を取得できるアメリカの場合、不動産ポータルの掲載物件情報では差がつかないのが実情です。買い手向けビジネスに原点回帰と言っても、不動産ポータルだけでトップの座を守り続けるのは難しくなってきているということです。

その点、Zillowは不動産ポータル以外の買い手向けビジネスを拡充していて、内見予約プラットフォームのShowingTimeを2021年2月に$500Mで買収し、すでにZillow Home Loansというローン事業もスタートしています。
不動産ポータルにとどまらず、物件探しから入居までEnd-to-Endでユーザーにサービス提供し、シームレスなユーザー体験を提供することが今後の主戦略となってきます。

ただ、このEnd-to-EndのコンセプトはRedfin、Opendoor、Compassなどすでに多くの不動産テック企業が標榜していて、iBuyerと比べると地味な印象は否めません。
投資家の期待を集めるために飛び道具的な事業をスタートするとしたら、最近ユニコーン企業が続出しているRent-to-Own(最近はPower Buyerという呼称も普及し始めているようです)※が最有力です。
Rent-to-OwnもiBuyerと同じくバランスシートリスクはありますが、この場合はターゲットユーザーがZillowの得意な買い手になりますし、ローン事業を通して金融機能はすでに持っているので実現可能性はゼロではないと思います。

※Rent-to-OwnとはiFunderの一種で、企業が買い手に代わって物件を現金一括購入して一時保有し、買い手は企業から賃貸してもらってその家に住み、ローンを確保でき次第、企業から買い取るというモデルです。詳しくはこちらの過去記事をご参照ください。
iBuyerに続く注目分野「iFunder」。累計4000億円調達のテック企業群を一挙解説

「Zillowの撤退=iBuyerの否定」ではない

Zillowが撤退したということはiBuyerビジネスそのものが危ないのでは?という声も出ていますが、個人的にはそんなことはないと思っています。

Zillowが他のiBuyer企業と比較して著しく粗利率が低く、オペレーションが回っていないことは以前から明白でした。今回の撤退はZillow自身がiBuyerのオペレーションを回すケーパビリティがないことを認め、それを立て直すよりも他の戦略を推し進めることを優先した判断の結果です。

以前も解説した通り、同じiBuyerビジネスでもOfferpadにいたっては黒字化間近とところまで来ており、きちんとオペレーションを回せば成立するビジネスモデルであることを証明しています。

11/2のZillowのiBuyer撤退の発表後、OpendoorとOfferpadの株価は10〜20%下落しており、世間のイメージ的にネガティブな印象があったことは否めません。
ただ、純粋にビジネスの観点で見ると、粗利益が低い=物件を高値掴みしていたZillowが退場したことは、より健全な価格で買取再販を回しやすくなったというポジティブな側面の方が強いはずです。

どちらかというとiBuyerビジネスにとっての今後の試金石は、Zillowの動向とは別問題のもっとマクロな観点で、今の好況が一段落して、物件価格が下降トレンドに転じたときにどうやって在庫をマネージするのかという点になってくると思います。

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市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。