新時代の不動産ポータル戦争。巨大企業4社のニュースと最新勢力図

3年弱にわたって書いてきているこのブログですが、ポータルサイトの分野は不動産テックの中で最大のビジネスであるにもかかわらず紹介することはあまり多くありませんでした。

というのも、2014年に業界1位のZillowが2位のTruliaを買収したことによりZillowトップの座は揺るぎないものとなり、その勢力図を揺るがすような変化は基本的にはなかったからです。

ところが、2020年末からその状況が一変します。
商業用不動産トップのプラットフォームで、Zillowに匹敵する時価総額を誇るCoStarが住宅売買領域への進出を発表したからです。

【参考記事】
時価総額3.6兆円!商業用不動産テックの覇者CoStarがZillow と全面対決へ
【米国不動産テック】2020年総まとめ&2021年展望

これをきっかけに既存大手も危機感を強めたのか、今年に入っても大きなニュースが続いており、2021年は不動産ポータル激動の年になる予感がします。
そういった背景から、今回は住宅売買ポータルBIG3であるZillow・Realtor.com・Redfinと新規参入を進めるCoStarの計4社の最新動向を一気にまとめます。

Zillow: 住宅売買領域に特化して着々とサービス拡充

・ShowingTimeを$500Mで買収

Zillowは内見予約管理ツール/サービスを提供するShowingTimeを2021年2月に$500Mで買収しました。ShowingTimeは内見予約関連のバックエンドを管理する若干地味なビジネスなのであまり有名ではないのですが、実は95万人のエージェントが利用しており圧倒的なシェアを誇っています。

ここ数年、アメリカの不動産テック各社は「End-to-End」を合言葉に、物件探しから契約まで一気通貫したサービス提供を目指しています。全米最大のポータルを保有するZillowも買収戦略によってCRM(LoopNet)や住宅ローン(Zillow Home Loans)といった物件探し以降の分野に進出していましたが、ここに「内見」という重要なプロセスが加わることになりました。

買収後の具体的な戦略は公表されていませんが、普通に考えればZillowのポータルと統合してサイト上で内見予約まで完了できるようにするのではないかと思います。他社は「内見希望の問い合わせ」までしかカバーできていないので、これが大きな差別化要素になります。

https://www.showingtime.com/

・MLSへの直接データ接続を開始

Zillowは仲介会社ではないので業者間システムのMLSを利用することはできず、物件データは仲介会社やMLS運営団体から様々な契約で引っ張ってきているという話は何度かこのブログでも紹介してきました。

しかし、「Zillowが仲介会社ライセンスを取得中。その裏にある意外な理由とは。」で解説したように、ここ1〜2年でZillowは仲介会社ライセンスの取得を進め、ついに2021年1月からMLSとのデータ接続(IDX=Internet Data Exchange)を開始しました。

上の投稿でも解説したように、おそらくこれはiBuyerとコンフリクトのある広告課金モデルから成約課金モデルにシフトして、iBuyerとポータルを共存させるための布石だと考えられます。

このような戦略的意図に加えて、MLSからのデータ接続によって、これまで課題となっていた掲載物件情報の鮮度・精度・網羅性を大幅に改善できるという側面もあります。これは掲載物件情報に若干の弱みを抱えながら、ブランド認知で戦ってきたZillowにとって大きな追い風になります。

CoStar: 買収攻勢によって住宅売買領域でのポータル開発

・HomeSnapを$250Mで買収

CoStarの住宅売買領域への進出はMLSの物件情報データマネジメントを提供しているCoreLogic買収の検討から始まりました。紆余曲折を経てCoreLogicの買収は断念する結果になったのですが、代わりに2020年11月に買収されたのがHomeSnapです。

同社はポータルとしての集客力はそれほどありませんが、売却物件マネジメントやデジタルマーケティングを支援するエージェント向けツールとして確固たる地位を確立しています。
CoStarのCEOも「HomeSnapを買収した理由はポータルの側面ではなく、業務支援ツールとエージェントの成功に伴走するDNAを評価した」といった趣旨のコメントをしています。

https://www.homesnap.com/pro

・「houses.com」ドメインを購入

HomeSnapの買収に続いて、2021年1月にCoStarは「houses.com」ドメインを購入しました。これは既存のウェブサイトを買収したというわけではなく、あくまで中身のまだないURLを取得したということになります。

特にアメリカでは業界内のビッグワード(不動産の場合、HouseとかHomeとか)と「.com」の組み合わせのドメインはブランディングのしやすさやURL直打ちでの流入への期待から人気が高く、高額で取引されています。

・住宅売買領域のポータルを開発?

①もともと物件情報マネジメントを提供するCoStarの買収を試みていた
②HomeSnapをポータルの側面ではなく売却物件マネジメントツールとして買収した
③「houses.com」のドメインを新たに取得した
という動きを総合すると、CoStarは既存のポータルの買収ではなくhouses.comのドメイン上に新たに独自の住宅売買領域ポータルサイトを開発する可能性が高いです。

・CoStarのCEOは「 I promise. Your listing, your lead(≒あなたの担当している売却物件への問い合わせはあなたのものだと約束する)」と語り、他のエージェントの担当物件ページに広告を掲載するZillowの姿勢を批判
・同じくCoStarのCEOは「Realtor.comが同じNews.Corp傘下の成功モデルREA Group(オーストラリアのNo.1不動産ポータル)と同じ戦略(広告課金×仲介会社による物件情報入稿)をとらなかったことに驚いた」とも発言
・商業物件プラットフォームのCoStarや傘下のLoopNetは基本的に担当仲介が物件情報を入稿するモデルで成功(商業物件にはMLSがないため)
といった出来事から察するに、SUUMOのような「広告課金×クライアント入稿」のポータルを想定しているのではないかと思います。(個人的にはMLS情報が開示されているアメリカで、この戦略がうまくいくかは疑問ですが)

【参考記事】時価総額3.6兆円!商業用不動産テックの覇者CoStarがZillow と全面対決へ

Redfin: ついに住宅賃貸領域に進出

・RentPathを$608Mで買収予定

アメリカの住宅不動産ポータルのBIG3と言えば、Zillow・Realtor.com・Redfinですが、実はRedfinだけはこれまで住宅売買のみに注力しており賃貸物件は全くカバーしていませんでした。

そんな中、2021年2月にRedfinがRent.comやApartmentGuide.comといった賃貸ポータルを運営するRentPathを$608Mで買収することを発表しました。

実はこのRentPath、もともとはCoStarが2020年2月に買収合意していたのですが、同社はアメリカ最大の賃貸ポータルApartments.comを傘下に持っているため、独占禁止法に引っかかってしまい許可が下りなかったという経緯があり、そこをRedfinがかっさらっていった形になります。

このタイミングであえてRefinが賃貸に進出することに対して様々な憶測が飛び交っていますが、RedfinのCEOはシンプルに「売買と賃貸の両方を検討しているユーザーのニーズに応えるための買収」と説明しています。

https://www.rent.com/
https://www.apartmentguide.com/

Realtor.com: 特に目立った動きはなし

目まぐるしい動きを見せるZillow・CoStar・Redfinとは対照的に大手不動産ポータルの一角Realtor.comに関しては、何も大きな動きがないのが現状です。むしろTop ProducerというCRMをConstellation Real Estate Groupに売却するなど、買収攻勢を進める他社とは真逆の動きすら見せています。

Realtor.comは2014年9月に今からすると破格の$950Mで買収され、Rupert Murdoch率いるNews Corp傘下に入りました。しかし、ここ最近のRealtor.comに対する積極性のない動きから、再度売却するのでは?という噂まで出ています。(News Corpは2年前にも21st Century FoxをDisneyに売却)

NewsCorpによるRealtor.comの売却で業界地図に更なる大変動が起こるのか、それとも売却はせずにZillow・CoStar・Redfinに対抗するべく大きな打ち手をこれから打ってくるのか、今後の動向に注目が集まります。

まとめ: 売買・賃貸の垣根がなくなり巨大企業同士の真っ向勝負へ

以上の内容を踏まえて、現在の不動産ポータルサイト勢力図を領域ごとにまとめると以下のようになります。

商業不動産領域No.1のCoStarグループの住宅売買進出により大きく揺れ動いていた勢力争いですが、ここに来て売買専門だったRedfinが賃貸に進出。こうして大手4社が売買・賃貸両方にポータルサイトを持ち、真っ向勝負で戦うことになりました。

2021年は久しぶりに不動産テックの本丸、ポータルサイト業界が激しく変動する一年になりそうなので目が離せません。

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市川 紘(Ko Ichikawa)

シリコンバレーの不動産テック企業MovotoでCFOとして勤務。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。